介護のヒヤリハット報告書の書き方|責めない書式・5つの項目・悪い例と良い例、事故防止委員会と研修での活かし方(2026)
更新日:2026-11-04・約23分で読めます
介護のヒヤリハット報告書は、書いた職員を責めるための書類ではなく、事故を防ぐ仕組みを直すための材料です。介護保険施設の運営基準は、事故やそれに至る危険がある事態が報告され、分析を通じた改善策を従業者に周知する体制を求めており、解釈通知は、その目的が「決して従業者の懲罰を目的としたものではない」としています。国の「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」(令和7年11月)は、報告様式について、時系列で書けること、事実と推測を分けること、本人・職員・環境の要因別に検討できることを挙げています。この記事は、省令・解釈通知・ガイドライン・事故報告の標準様式(令和6年11月)をページ番号つきで確かめ、ヒヤリハットと事故の線引き、報告書の5つの項目、悪い例から良い例への書き換え、事故防止委員会での集計と分析、研修での事例検討の進め方、記録の保存までを整理しました(2026年11月時点)。最終的な適用は、指定権者(都道府県・市区町村)と、事故報告の提出先である保険者(市町村)にご確認ください。医療的な判断は嘱託医・協力医療機関にご相談ください。
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まず結論:ヒヤリハット報告書は「誰が悪いか」でなく「どこを直すか」を書く書類
ヒヤリハット報告書の書き方で迷う点は、何を書けばよいかより、どう書けば責められないか、のほうかもしれません。国の資料は、報告の目的を職員の責任追及ではなく、ケアの改善と再発防止に置いています。そのため、書式も「反省」ではなく「事実」と「要因」と「対策」を書く形にそろえると、委員会で集計しやすく、研修の教材にも使いやすくなります。
早見表(2026年11月時点):
- 線引き:解釈通知は、事故に至らなかったが事故が発生しそうになった場合を「ヒヤリ・ハット事例」と呼び、事故・ヒヤリハット・放置すると事故に結びつく可能性が高いものをまとめて「介護事故等」として報告の対象にしています。
- 義務の範囲:報告・分析・周知の体制は、特養・老健・介護医療院・地域密着型介護老人福祉施設の運営基準の義務です。訪問・通所などの運営基準には、事故が起きた時の連絡・記録・賠償の規定があり、ヒヤリハットの報告体制の規定は確認した範囲にはありません。
- 責めない書式:解釈通知は報告の仕組みが懲罰を目的としたものではないことに留意するよう求め、ガイドラインは、事実と推測を分けること、本人・職員・環境の要因別に検討できることを報告様式の工夫に挙げています。
- 5つの項目(当社の整理):①いつ・どこで ②誰に・どんな状態で ③何が起きたか(事実を時系列で) ④なぜ起きそうになったか(要因) ⑤どうしたか・どうするか(対応と対策の案)。
- 委員会:報告された事例を集計・分析し、防止策を検討し、従業者に周知し、効果を評価する流れが解釈通知に示されています。
- 研修:施設の事故防止の研修は年2回以上と新規採用時(解釈通知)。ガイドラインは、施設内の実事例を用いた演習を有用な研修の形として紹介しています。
ヒヤリハットと事故の線引き:資料の定義どおりに分ける
ヒヤリハットの定義は、施設ごとにばらばらになりやすい点です。この記事では当社が独自に定義を作らず、国の資料の言葉をそのまま使います。
特養の解釈通知(老企第43号)は、指針に盛り込む項目のひとつとして、報告方法等に関する基本方針を挙げ、その対象を次の3つとしています。施設内で発生した介護事故、介護事故には至らなかったが介護事故が発生しそうになった場合(ヒヤリ・ハット事例)、現状を放置しておくと介護事故に結びつく可能性が高いもの、の3つで、まとめて「介護事故等」と呼んでいます。つまり、実際には何も起きなかった「危ない状態」も、報告の対象に入ります。
ガイドラインは、ヒヤリ・ハット、インシデント、アクシデントをレベル別・類型別に管理し、原因分析と再発防止を進められる仕組みを作ることを取組の全体像に挙げています(2ページ)。ただし、それぞれのレベルをどう区切るかの定義は、確認した範囲のガイドラインには示されていません。レベルの区切り方を使う場合は、施設の指針に定義を書き、全員が同じ基準で分類できるようにします。
ガイドラインは、1件の重大事故の背後には重大事故に至らなかった数十件の小さな事故があり、さらにその背後には事故寸前だった数百件の「ヒヤリ・ハット」がある、という「ハインリッヒの法則」を紹介し、どんな小さな「ヒヤリ・ハット」でも見逃さずに対応することで、利用者や職員の安全を守ることができるとしています(10ページ)。「少し気になる」程度の些細なものも、起こりうる事故を未然に防ぎ、ケアの質を高めるための貴重な情報になるとしています(17ページ)。
- 事故:実際に利用者に何かが起きたもの。けがの有無や程度にかかわらず、施設の指針の定義で事故として扱います。
- ヒヤリハット:事故には至らなかったが、事故が発生しそうになったもの(例:立ち上がった利用者がふらつき、職員が支えて転倒しなかった)。
- 放置すると事故に結びつく可能性が高いもの:まだ誰も危ない目に遭っていないが、そのままだと事故になりそうな状態(例:廊下の床が濡れたままになっている、ベッドのストッパーが外れている)。
- 市町村への事故報告:運営基準は、事故が発生した場合に市町村・家族等へ連絡することを求めています。標準様式の通知(令和6年11月29日)は、死亡に至った事故と、医師の診断を受け投薬・処置等何らかの治療が必要となった事故は原則として全て報告するとし、その他の事故の報告は各自治体の取扱いによるとしています。ヒヤリハットを市町村に報告する規定は、確認した範囲にはありません。
根拠:運営基準が求める「報告と分析を通じた改善策の周知」
特養の運営基準(平成11年厚生省令第39号)第35条第1項第2号は、「事故が発生した場合又はそれに至る危険性がある事態が生じた場合に、当該事実が報告され、その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制を整備すること」を求めています。老健・介護医療院・地域密着型介護老人福祉施設の運営基準も同じ措置を定めています。「それに至る危険性がある事態」が、ヒヤリハットに当たる部分です。
解釈通知は、この体制の目的を、介護事故等について施設全体で情報共有し、今後の再発防止につなげるためのものであり、決して従業者の懲罰を目的としたものではないことに留意することが必要、としています。その上で、具体的に次のことを想定しています。
- 介護事故等について報告するための様式を整備すること。
- 介護職員その他の従業者は、介護事故等の発生ごとにその状況、背景等を記録するとともに、様式に従い報告すること。
- 事故発生の防止のための委員会において、報告された事例を集計し、分析すること。
- 事例の分析に当たっては、発生時の状況等を分析し、発生原因、結果等をとりまとめ、防止策を検討すること。
- 報告された事例及び分析結果を従業者に周知徹底すること。
- 防止策を講じた後に、その効果について評価すること。
「責めない」書式の考え方:国の資料が挙げる4つの点
ガイドラインは、ヒヤリ・ハット/事故報告の目的は職員の責任追及ではなく利用者に対するケアの改善であり、仕組みを作る際には報告を活性化するための工夫が重要としています(17ページ)。叱責される恐れがある場合は報告を避ける意識が働くため、事故は職員個人ではなく施設全体の課題と捉え、職員が萎縮しない環境作りを意識するよう述べています。
同じページには、報告を活性化させるためのチェックポイントとして、次の4つが挙げられています。
- 職員に報告の重要性が理解されているか:まず理念・指針として示し、報告が事故防止にとって重要であることを伝えます。
- 職員への責任追及が行われていないか:事故は職員個人ではなく施設全体の課題と捉えます。
- 職員が書きやすい様式を使っているか:記入要領や記入例を用意する、分類できる項目をチェックボックス式にするなど、報告書作成の負担を減らします。
- 報告へのフィードバックを行っているか:報告内容の分析や再発防止策の検討を、現場に返す仕組みを作ります。
報告した人を評価する:運営指導マニュアルとガイドラインの記載
介護保険施設等運営指導マニュアル(令和6年7月改訂)は、事故の防止にはヒヤリハットの取り組みが有効だとした上で、ヒヤリハットの仕組みはあっても報告をためらう従業者が多い等、有効に機能していない場合は、報告を行った方が評価されるような、従業者にとってインセンティブが働く仕組みづくりを行うよう指導する、としています(印字50ページ)。同じマニュアルのヒアリング例には、「最近、ヒヤリハットしたことはありますか?(ある場合は)どのように対応されましたか。」という質問が載っています(印字52ページ)。
ガイドラインも、事故報告について、報告を奨励し、報告したこと自体を評価すること、実際にケアの改善や利用者の安全向上に役立ったことを職員が実感できると、報告に対する意欲も高まる、としています(23ページ)。書式の工夫に加えて、報告が出た時の受け止め方を施設で決めておくことが、「責めない」の中身になります。
- 受け止め方の例(当社の整理):報告を受けた上司は、最初に内容の確認と礼を伝え、原因の話は委員会や振り返りの場で仕組みとして扱う。
- 人事評価との切り分け(当社の整理):ヒヤリハットの件数や内容を、書いた職員の減点に使わないことを指針に書いておく。報告の件数を個人の成績として競わせる形も、記録の質を下げるおそれがあるため避ける。
報告書の5つの項目:国の様式と照らした書き方(当社の整理)
ヒヤリハット報告書について、国が定めた様式は確認した範囲にはありません。一方、市町村に出す事故報告書には、令和6年11月29日の通知で示された標準様式があり、事故の概要(発生日時・発生場所・事故の種別・発生時状況)、事故発生時の対応、事故の原因分析(本人要因、職員要因、環境要因の分析)、再発防止策(手順変更、環境変更、その他の対応、再発防止策の評価時期および結果等)といった項目が並んでいます。ガイドラインの、時系列で書けること、事実と推測を分けること、要因別に検討できること、という報告様式の工夫(17ページ)とあわせると、施設内のヒヤリハット報告書は次の5つの項目にまとめられます。
- ①いつ・どこで:発生日時(何時何分頃)と場所。場所は、居室・トイレ・廊下・食堂等共用部・浴室・脱衣室などのチェックボックスにすると集計しやすくなります(標準様式の発生場所の選択肢を参考にできます)。
- ②誰に・どんな状態で:利用者の状態(歩行の様子、福祉用具、認知症の有無と程度、その日の体調や薬の変更など)。報告書は施設内の記録で、研修に使う時は氏名を伏せます。職員は職種と経験年数程度にとどめ、誰の責任かを示す書き方にしません。
- ③何が起きたか(事実を時系列で):見たこと・聞いたこと・したことを、時刻の順に書きます。推測には「〜と思われる」「本人は〜と話した」と付けて、事実と分けます。
- ④なぜ起きそうになったか(要因):本人の要因、職員(業務・手順)の要因、環境の要因に分けて書きます。標準様式の原因分析も、本人要因・職員要因・環境要因の分析を求めています。
- ⑤どうしたか・どうするか:その場で取った対応、誰に報告したか、対策の案(手順を変える、環境を変える、アセスメントを見直す等)。対策の案は書いた人だけで決めず、委員会で検討する前提で書きます。
様式の作り方:チェックボックスと自由記載を分ける(当社の整理)
ガイドラインは、分類可能な項目をチェックボックス式にするなど、様式を工夫して報告書作成の負担を減らすよう述べています(17ページ)。分類の項目を事故報告の標準様式とそろえておくと、ヒヤリハットと事故を同じ切り口で集計でき、事故になった時に市町村への報告書へ転記しやすくなります。
- チェックボックスにする項目:発生場所、種別(転倒・転落・誤嚥・窒息・異食・誤薬、与薬もれ等・医療処置関連・その他・不明。標準様式の事故の種別の選択肢を参考にした例)、時間帯、利用者の要介護度と認知症高齢者の日常生活自立度、報告区分(事故・ヒヤリハット・放置すると事故に結びつくもの)。
- 自由記載にする項目:発生時の状況(時系列)、要因(本人・職員・環境の3欄)、その場の対応、対策の案。
- 記入欄の大きさ:自由記載欄は数行で足りる大きさにし、1枚に収めます。長く書くほど評価されるという誤解を生まないようにします。
- 記入例:様式の裏面か別紙に、下の「良い例」のような記入例を1件付けます。ガイドラインは、記入要領や記入例の用意を挙げています。
- 提出の手段:紙でも電子でも構いませんが、委員会で集計できるよう、項目の並びは同じにします。
悪い例と良い例:同じ出来事の書き換え(当社の例・架空の事例)
以下は当社が作った架空の例で、実在の人物・施設とは関係ありません。同じ出来事でも、書き方で委員会の分析のしやすさが変わります。
例1(転倒しそうになった)の悪い例:「Aさんがトイレの前でふらついた。私が目を離したせいです。申し訳ありません。今後は気をつけます。」
同じ出来事の良い例:「11月○日 14時20分頃、2階トイレ前の廊下。利用者(80代・要介護3・歩行器使用)が歩行器を使わずにトイレへ向かい、ドアの前でふらついた。近くにいた介護職員が支え、転倒はなかった。本人は『急いでいた』と話した。14時15分から同じフロアで入浴介助が続いており、フロアの職員は1人だった(事実)。歩行器はベッドから手の届かない位置に置かれていた(事実)。直前に水分を多めにとっていた(記録より)。要因:本人=トイレの間隔が短くなっている可能性(推測)/職員=入浴介助の時間帯にフロアの見守りが手薄になる/環境=歩行器の置き場所。対応:居室へ付き添い、看護職員に報告。対策の案:歩行器の置き場所を決めて居室に表示する、入浴介助の時間帯の見守りの分担を委員会で検討する。」
良い例は、反省や謝罪の言葉がない代わりに、時刻・場所・事実・推測の区別・3つの要因・対応・対策の案がそろっています。委員会は、この報告から「入浴介助の時間帯」「歩行器の置き場所」という仕組みの課題を拾えます。
例2(誤薬しそうになった)の悪い例:「配薬のとき、Bさんの薬をCさんに渡しそうになった。確認不足でした。」
同じ出来事の良い例:「11月○日 8時05分頃、1階食堂。朝食後の配薬で、Bさん用の薬袋をCさんの席に置きかけた。手渡す前に、薬袋の氏名を読み上げて本人に確認した時点で気づき、渡していない。2人は隣の席で、薬袋は同じ色・同じ大きさだった(事実)。配薬中に別の利用者から呼ばれ、1度その場を離れていた(事実)。要因:職員=配薬の途中で別の対応が入った/環境=薬袋が見分けにくい、席が隣同士。対応:正しい薬を渡し、看護職員に報告。対策の案:配薬中は他の依頼を受けない合図を決める、薬袋の色分けを薬局に相談する。」
例2の良い例は、ガイドラインのSHELL分析の例(仕分け袋が目立ちにくい色・大きさ、服薬介助中の職員に他の対応を依頼することがある、28ページ)と同じ見方で要因を書いています。
書くときの言葉の注意(当社の整理)
書式がそろっていても、言葉の選び方で「責める」報告書に戻ってしまうことがあります。次の点を記入要領に入れておくと、報告書が分析に使える形になります。
- 反省文にしない:「不注意でした」「気をつけます」は要因でも対策でもありません。何が起きて、何がそうさせたかを書きます。
- 評価の言葉より、見た行動:「不穏」「落ち着きがない」ではなく、「15分の間に3回立ち上がり、出口の方へ歩いた」のように書きます。
- 事実と推測を分ける:見ていないことは「〜と思われる」「本人によると」と付けます。ガイドラインも、原因分析においては事実と推測を明確に分けるとしています。
- 個人の名前を書かない:職員は職種で書き、誰の責任かを示す書き方を避けます。利用者の氏名は施設内の記録に限り、研修資料では伏せます。
- 早く出す:記憶が新しいうちに書きます。ガイドラインは、事故発生時の状況に関する記憶が鮮明なうちに、発見者を中心に多職種で現場を検証するとしています(23ページ)。
事故防止委員会での集計と分析:何を数え、どう読むか
ガイドラインは、事故発生防止のための委員会に求められる機能として、①施設内で発生した事故やヒヤリ・ハットの事例収集、発生傾向の分析、②事故分析、予防・再発防止策の検討・決定、③事故予防・再発防止策の周知、④対策の効果検証、を挙げています(14ページ)。また、発生した事故に限らず、ヒヤリ・ハット事例も施設内で一元的に収集し、管理・分析して、数値データや事例として発生状況を把握する仕組みの整備が重要としています(17ページ)。
集計の切り口(当社の整理)として、種別(転倒・誤薬など)、場所、時間帯、報告区分(事故・ヒヤリハット)、利用開始からの期間、を同じ表に並べる方法があります。ガイドラインは、サービス利用開始直後は事故の発生リスクが高い時期だとしており(16ページ)、利用開始からの期間で分けると、入所直後のアセスメントの見直しにつなげやすくなります。
件数の読み方(当社の整理):ヒヤリハットの件数が増えたことは、危ない出来事が増えたことだけでなく、報告しやすくなったことを表している場合もあります。件数の増減だけで良し悪しを決めず、同じ種別・場所・時間帯に集まっていないか、事故とヒヤリハットの比率がどう動いたか、を見ます。ガイドラインは、事故情報を管理・集計しておくことで、定期的に分析して事故の傾向の変化を確認できるとしています(23ページ)。
- 深く分析する事例の選び方:ガイドラインは、根本原因分析(RCA)はすべての事案に行う必要はなく、繰り返し発生している発生頻度の高い事案と、重大事故につながりかねない影響度の高い事案に対して行うよう述べています(28ページ)。
- なぜなぜ分析:「なぜそうなったのか?」を繰り返して根本原因までたどる方法で、施設管理者などが第三者の視点で問いかける役割を担うとされています(28ページ)。
- SHELL分析:手順書などのソフトウェア、物品などのハードウェア、照明などの環境、当事者、他者の観点で要因を整理する方法で、当事者個人以外の要因を見える形にできるとされています(28ページ)。
- 要因と対策の対応:ガイドラインは、根本要因が利用者本人にあればアセスメントやケア内容の見直し、環境面にあれば家具配置の変更や設備改修、職員全員に共通するなら業務手順書の見直しや研修、職員個人にあればスキルチェックや再教育、と対策の方法を例示しています(27ページ)。
- 効果の評価:解釈通知は、防止策を講じた後に、その効果について評価することを求めています。委員会の議事録に、対策を始めた日と、評価する時期を書いておきます(当社の整理)。
委員会の開き方と記録
解釈通知(令和3年度改正後)は、事故防止検討委員会を幅広い職種(例えば、施設長(管理者)、事務長、医師、看護職員、介護職員、生活相談員)で構成し、構成メンバーの責務と役割分担を明確にするとしています。テレビ電話装置等を活用して行うことができ、関係する職種や取り扱う事項等が相互に関係が深い他の会議体を設置している場合は、これと一体的に設置・運営して差し支えないとされています。開催の回数を定めた記載は、確認した国の資料にはありません。
ガイドラインは、平時に定期的に開く委員会だけでなく、事故が発生した際に迅速な対応を行うため、臨時で委員会を開催することも必要としています(14ページ)。運営指導の確認文書には「事故発生防止のための委員会の開催状況及び結果がわかるもの」が挙がっているので、ヒヤリハットの集計表と、そこから決めた対策を議事録に残しておくと、そのまま示せます。委員会の進め方の全体(議題の組み方・議事録)は、委員会の進め方の記事で整理しています。
研修での使い方①:年2回の研修とヒヤリハットの位置づけ
施設の事故防止の研修の回数は、解釈通知が示す年2回以上と、新規採用時の実施です(研修の義務・減算との関係は事故防止研修の記事で整理しています)。解釈通知は、研修の内容を、事故発生防止の基礎的内容等の適切な知識を普及・啓発するとともに、施設の指針に基づき安全管理の徹底を行うもの、としています。指針にはヒヤリハットを含む介護事故等の報告方法等が入るので、報告書の書き方は研修の題材として扱いやすい内容です。
ガイドラインは、講義形式の研修だけでなく、ワークショップ等の職員参加型の研修も有用で、施設内の実事例を用いることで、自施設に合ったリスク予測や対策を自分事として考えられるとしています。事例を用いて事故の原因分析や対策を考える演習を行っている施設の例も紹介しています(15ページ)。
- 組み方の例(当社の整理):年2回のうち1回を、事故防止の基礎(事故の類型、報告の意味、発生時の対応)の講義に、もう1回を、施設のヒヤリハット報告を使った事例検討にする。
- 新しく入った職員:入職時の研修で、報告の対象(介護事故等の3つ)と、報告書の5つの項目、提出先を伝えます。記入例を見せて、最初の1枚を一緒に書く形にすると、書き方がそろいやすくなります(当社の整理)。
- 記録:解釈通知は、研修の実施内容を記録することを求めています。事例検討の回は、使った事例(匿名化したもの)、出た要因と対策の案、委員会に上げた事項も残します(当社の整理)。
研修での使い方②:ヒヤリハット事例検討の進め方(30分の例)
以下は当社の整理による進行例で、法令や国の資料が定めた形ではありません。事例は、利用者・職員の氏名や特定につながる情報を伏せて使います。
- 準備:委員会の集計で多かった種別から、ヒヤリハット報告を1〜2件選び、氏名を伏せて配ります。報告書の5つの項目の様式と、なぜなぜ分析・SHELL分析の枠を印刷しておきます。
- 0〜5分 目的の確認:「誰が悪いかを探す時間ではなく、仕組みのどこを直すかを探す時間」と最初に伝えます。
- 5〜15分 書き直し:元の報告書を、5つの項目に沿って書き直します。事実と推測に線を引いて分け、反省の言葉を事実に置き換えます。
- 15〜25分 要因と対策:少人数の班で、なぜなぜ分析かSHELL分析を使い、本人・職員・環境の要因を出します。対策は「気をつける」ではなく、手順・環境・アセスメントのどれを変えるかで書きます。
- 25〜30分 共有と持ち帰り:班ごとに対策の案を1つ発表し、委員会で検討する事項としてまとめます。次回の研修か委員会で、その対策がどうなったかを報告します。
- 確認の問いの例:「この報告書で、事実と推測が混ざっている文はどれか」「要因を本人・職員・環境に分けると、どれが一番多いか」「対策の案は、誰が・いつから・何を変えるかが書けているか」。
結果を現場に返す:周知とフィードバック
解釈通知は、報告された事例及び分析結果を従業者に周知徹底することを求めています。ガイドラインは、報告が実際のケアの改善に役立ち、利用者の安全が高まることを実感すると職員が報告する意欲が高まるとして、報告内容の分析や再発防止策の検討を現場にしっかりフィードバックする仕組みを作るよう述べています(17ページ)。分析・検討の結果を現場職員にフィードバックすること、再発防止策を実践して一定の期間が経過した後に効果の検証を行うことも挙げています(27ページ)。
- 返し方の例(当社の整理):月ごとの集計表と、決まった対策を1枚にまとめて休憩室や申し送りで共有する。報告した職員には、その報告から何が変わったかを個別に伝える。
- 会議録の公開:ガイドラインは、会議録を施設内で公開する、事故が発生した際には委員会メンバー以外の職員にも議論に参加してもらう等の工夫をしている施設があるとしています(14ページ)。
記録の保存:事故の記録は2年。ヒヤリハット報告書は指針で決める
特養の運営基準第37条第2項は、入所者に対するサービスの提供に関する記録を整備し、その完結の日から2年間保存することを求め、その中に第35条第3項の「事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録」が入っています(第6号)。訪問介護(平成11年厚生省令第37号)も、第39条第2項第6号で事故の記録の2年間の保存を定めています。
一方、ヒヤリハット報告書そのものの保存年限を定めた規定は、確認した省令と解釈通知には見当たりませんでした。当社の整理として、ヒヤリハット報告書と集計表、委員会の議事録の保存期間を施設の指針で決めておく方法があります。委員会の開催状況と結果は運営指導の確認文書に挙がっているため、少なくとも次の運営指導で示せる期間は残しておくと説明しやすくなります。運営基準は指定権者の条例で定められているため、保存年限が省令と異なっていないかも指定権者に確認してください。
訪問・通所などの在宅系での使い方
在宅系のサービスで、ヒヤリハットの報告体制を運営基準が求める規定は、確認した範囲にはありません。ただし、事故が起きた場合の市町村・家族・居宅介護支援事業者等への連絡、状況と処置の記録、損害賠償は、訪問介護(第37条)や通所介護(第104条の3)でも義務です。
ガイドラインは、居宅系サービスの安全管理も内容に含め、通所系サービスでは自宅との環境の違いがリスクとなるため家族等との情報共有が重要、訪問系サービスでは他のサービス提供事業者との連携が必須だとしています(46ページ)。訪問介護で、デイサービスで変更した食形態が伝わっておらず誤嚥につながるようなケースも例に挙げています。在宅系でヒヤリハット報告書を使う場合は、「他の事業所や家族から聞いていなかった情報」を要因の欄に書ける形にしておくと、ケアマネジャーとの連携の材料になります(当社の整理)。標準様式の通知も、居宅等の介護サービスの事故報告で可能な限り様式を活用するよう求めています。
無料で使える事故防止研修キット
本サイトの「事故防止(安全管理)研修キット」は、事故の類型、ヒヤリハットの活用、事故発生時の対応と報告を扱う読み上げ用レジュメ・確認テスト・実施記録様式・出席簿を、無料で表示・印刷できます。講義の回はキットで行い、事例検討の回はこの記事の進行例と、施設のヒヤリハット報告を使う、という組み合わせ方ができます。
法令や国の資料は改訂されます(本記事は2026年11月時点)。最終的な適用は、指定権者(都道府県・市区町村)と、事故報告の提出先である保険者(市町村)にご確認ください。医療的な判断は嘱託医・協力医療機関にご相談ください。本記事は法的助言ではありません。
この記事で確認した一次資料
2026年11月4日に、次の資料の本文を取得し、該当箇所を確かめました。ガイドラインのページ番号は本文の印字ページで、介護保険最新情報 Vol.1436 のPDFでは、表紙と事務連絡の分だけ3ページ後ろになります。
- 省令:平成11年厚生省令第39号 第35条・第37条第2項(e-Gov法令検索)、平成11年厚生省令第37号 第37条・第39条第2項。老健(第40号 第36条)・介護医療院(平成30年厚生労働省令第5号 第40条)・地域密着型(平成18年厚生労働省令第34号 第155条)は当サイトの事故防止研修の記事で確認した内容によります。
- 解釈通知:老企第43号の「事故発生の防止及び発生時の対応」(厚生労働省 法令等データベースの掲載版)の⑴指針・⑵報告と分析・⑷研修。⑴・⑵・⑷は令和3年度・令和6年度改正の新旧対照表で「略」(改正なし)であること。⑶委員会は令和3年度改正の新旧対照表の改正後の文言によります。
- ガイドライン:介護保険最新情報 Vol.1436(令和7年11月7日)で周知された「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」の2・10・14〜17・23・27・28・46ページ。
- 事故報告:介護保険最新情報 Vol.1332(令和6年11月29日)の通知本文と別紙の標準様式。これにより令和3年3月19日の通知(Vol.943)は廃止されています。
- 運営指導:介護保険施設等運営指導マニュアル(令和6年7月改訂)の印字50〜52ページと、確認項目及び確認文書(介護老人福祉施設)。
この記事を書いたチームは、note でも介護の仕事で考えたことを書いています。note をフォローする
出典(一次資料)
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)
- 介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成30年厚生労働省令第5号)
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)
- 厚生労働省 法令等データベース「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」(平成12年3月17日 老企第43号)=事故発生の防止のための従業者に対する研修(現行の第4の37⑷)の本文
- 厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」(老企第43号)令和3年度改正の新旧対照表(PDF)
- 厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」(老企第43号)令和6年度改正の新旧対照表(別紙14・抄)
- 厚生労働省老健局「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」(令和7年11月/介護保険最新情報 Vol.1436 令和7年11月7日の別添・PDF・2026年11月4日確認)
- 介護保険最新情報 Vol.1332「介護保険施設等における事故の報告様式等について(通知)」(老高発1129第1号・老認発1129第1号・老老発1129第1号・令和6年11月29日/別紙 事故報告書の標準様式・PDF・2026年11月4日確認)
- 介護保険最新情報 Vol.943「介護保険施設等における事故の報告様式等について」(令和3年3月19日・令和6年11月29日付の通知で廃止・PDF)
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」(令和6年7月改訂)
- 厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」別添 確認項目及び確認文書(令和6年7月改訂・PDF)
【免責事項】本キットは研修実施の参考資料です。法令・運営基準・介護報酬の内容は改定されることがあります。実際の運用にあたっての最終確認は、指定権者(都道府県・市区町村等の自治体)へのご確認をおすすめします。本キットの利用により生じた損害について、当社の損害賠償責任は、故意・重過失を除き購入代金の額を上限とします。