介護職場のハラスメント防止研修の組み立て方——パワハラ・セクハラと指導の境目を事例で考える
更新日:2026-11-04・約10分で読めます
介護の運営基準は、すべてのサービスに、職場のセクシュアルハラスメントとパワーハラスメントを防ぐ「方針の明確化等の必要な措置」を義務づけています(訪問介護は平成11年厚生省令第37号第30条第4項)。研修そのものを義務づける条文はありませんが、国の指針は、方針を職員に周知・啓発する方法の例として研修を挙げています。この記事は、職員どうしの言動を中心に、パワハラの3要素と6類型、指導との境目の事例演習、相談の受け方、記録までを60分の研修に組み立てる方法を整理しました(2026年11月時点)。利用者や家族からのカスタマーハラスメントは別の記事で扱います。個別の言動がハラスメントに当たるかどうかの判断は書いていません。
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研修キット(レジュメ・確認テスト・記録様式)
まず結論:職場のハラスメント研修は「方針を知る・境目を考える・相談できる」を1回で通す
介護の運営基準が義務づけているのは、職場のセクシュアルハラスメント(セクハラ)とパワーハラスメント(パワハラ)を防ぐ「方針の明確化等の必要な措置」です。条文に研修の語はなく、回数の定めもありません。国の指針は、方針を職員に周知・啓発する方法の例として研修を挙げています。
この研修の狙いは、事業所の方針を全員が知り、指導とハラスメントの境目を事例で考え、困った時に相談できる状態にすることです(当社の整理)。
- 組み立て(当社の整理):①事業所の方針と相談窓口 ②パワハラの3要素と6類型、セクハラの2つの型 ③指導との境目の事例演習 ④相談の受け方 ⑤職場の改善を1つ決める ⑥確認テストと記録。
- 別の記事で扱うこと:利用者や家族からのカスタマーハラスメントは「介護のカスハラ対策は2026年10月1日から義務」、分野ごとの回数の一覧は「介護の法定研修まとめ」。
- 書かないこと:個別の言動がハラスメントに当たるかの判断。
根拠:運営基準は「措置」を義務づけ、研修は周知・啓発の方法
訪問介護の運営基準(平成11年厚生省令第37号)第30条第4項は、職場において行われる性的な言動又は優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより就業環境が害されることを防止するための「方針の明確化等の必要な措置」を求めています。通所介護は第101条第4項、指定介護老人福祉施設(特養)の基準(平成11年厚生省令第39号)は第24条第4項に、同じ趣旨の規定があります。
解釈通知(介護保険最新情報 Vol.934)は、この規定が男女雇用機会均等法第11条第1項と労働施策総合推進法の措置義務(通知の当時は第30条の2第1項。2026年10月1日から第31条)を踏まえたものだとし、特に留意する内容として、方針を明確化して従業者に周知・啓発すること、相談窓口をあらかじめ定めて周知することを挙げています。セクハラには、上司や同僚に限らず、利用者やその家族等から受けるものも含まれることに留意するよう求めています。
研修は、指針が周知・啓発の方法の例に「研修、講習等を実施すること」を挙げている位置づけです。労働施策総合推進法第32条第2項と均等法第12条第2項も、「研修の実施その他の必要な配慮」を事業主の努力義務としています。
年間計画の中での位置:回数の定めはないので、置き方を決めて書いておく
職場のハラスメント防止の研修には、法令上の回数も、新規採用時の定めもありません。計画表に置く時は、法定の回数ではなく事業所が決めた計画であることがわかるように書きます(当社の整理)。
- 年1回の全体研修:方針・相談窓口・境目の事例を全員でそろえる回。指針は方針を「管理監督者を含む労働者」に周知・啓発するとしているので、管理者や主任も受講します。
- 入職時:法令の定めはありませんが、方針と相談窓口だけは最初の週に伝えておくと、困った時の行き先がわかります(当社の整理)。
- 事案のあと:指針は再発防止の措置の例に、研修、講習等を改めて実施することを挙げています(事実が確認できなかった場合も同様)。
60分の時間割(当社の整理)
パートや派遣の職員も対象です(指針)。全員が集まれない時は、同じ資料で日を分けて行います(当社の整理)。
| 区分 | 時間 | 内容 |
|---|---|---|
| 導入 | 5分 | 目的、話し合いの約束(人を特定しない・ここで出た話を外で話さない)、事業所の方針文書の確認。 |
| 講義 | 15分 | パワハラの3要素と6類型、セクハラの2つの型、指導との違い、相談窓口と不利益な取扱いの禁止。 |
| 演習 | 20分 | 指導との境目の場面を小グループで読み、言い方や場面の変え方を考える。 |
| 話し合い | 10分 | 起きやすい背景(忙しさ、申し送り、指導の仕方)を出し、職場の改善を1つ決める。 |
| まとめ | 10分 | 相談の受け方の確認、確認テスト、記録。 |
講義で押さえること:パワハラの3要素と6類型、セクハラの2つの型
パワハラ指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、の3つを全て満たすものをパワハラとし、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は該当しないとしています。「優越的な関係」には、知識や経験の豊富な同僚・部下の言動や、集団による行為も含まれます。
代表的な類型は、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の6つです。指針は類型ごとに「該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」を並べ、限定列挙ではないとしています。
セクハラ指針(平成18年厚生労働省告示第615号・令和8年10月1日適用版)は、性的な言動への対応によって解雇や降格などの不利益を受ける「対価型」と、性的な言動で就業環境が害される「環境型」の2つを示し、同性に対するものも含むとしています。行為者には、上司や同僚に限らず、顧客、患者又はその家族もなり得るとしています。
演習:指導との境目を事例で考える
当社が作った架空の場面です。目的は「ハラスメントに当たるか」の結論を出すことではなく、指針の類型に照らして、言い方や場面をどう変えれば必要な指導が伝わるかを考えることです。自事業所の出来事を使う時は、人が特定される情報を外します(当社の整理)。
- 進め方(当社の整理):各自で読む→指針の観点と照らす→言い方や場面の変え方をグループで1つ書く→自分の職場で起きそうな場面を1つ足す。
| 職場の場面 | 照らす指針の観点 | 話し合いの問い |
|---|---|---|
| 記録の誤りを、ほかの職員の前で大声で何度も叱る。 | 精神的な攻撃(面前での威圧的な叱責の繰り返し)。 | 伝える場所と言い方をどう変えるか。 |
| 手順を守らず事故につながりかねない行為を繰り返す職員に、別室で手順を示して強めに注意する。 | 「該当しないと考えられる例」に近い(改善されない場合や重大な問題行動に一定程度強く注意する)。 | 必要な指導を萎縮させずに続けるには、何を押さえるか。 |
| 申し送りの内容を、特定の職員にだけ伝えない。 | 人間関係からの切り離し。ケアへの影響。 | 情報が全員に届く仕組みは何か。 |
| 夜勤明けの職員に、業務と関係のない私用を頼む。 | 過大な要求(私的な雑用の強制)。 | 頼みごとの線引きをどこに置くか。 |
| 職員の病歴や家庭の事情を、本人の了解なく他の職員に話す。 | 個の侵害(機微な個人情報の暴露)。 | 配慮のために共有が要る時の手順は何か。 |
| 休憩室で、容姿や交際について冗談を言う。 | 環境型のセクハラ。 | 言われた側が言い出せる関係をどう作るか。 |
相談の受け方:窓口、プライバシー、不利益な取扱いの禁止
指針は、相談窓口をあらかじめ定めて周知し、担当者が適切に対応できるようにすることを求め、ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、そのおそれがある場合や該当するか微妙な場合も広く相談に対応するとしています。相談者・行為者等のプライバシーを守ること、相談したことや事実確認に協力したことを理由に不利益な取扱いをしない旨を定めて周知することも、講ずべき措置です(労働施策総合推進法第31条第2項・均等法第11条第2項)。
研修では、相談する側と受ける側の両方を練習します(当社の整理)。
- 相談する側:窓口の名前と連絡方法、管理者に言いにくい時の別の経路(事業所が定めたもの)を確認する。
- 受ける側(同僚・主任):まず話を聞き、「それくらい我慢して」と返さない。本人の了解を得て窓口につなぐ。
- 窓口の担当者:指針は、相談対応とプライバシー保護についての担当者向けの研修を例に挙げています。全員向けとは別に短い回を設けます(当社の整理)。
話し合い:個人だけでなく、職場の背景を見る
パワハラ指針は、周知・啓発に当たって発生の原因や背景について労働者の理解を深めることが重要だとし、背景には労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題もあると考えられるとしています。セクハラ指針は、性別役割分担意識に基づく言動も背景にあると考えられるとしています。
パワハラ指針は望ましい取組として、指導やコミュニケーションについての研修、定期的な面談、適正な業務目標の設定などを挙げています。話し合いでは、背景を人手と時間、申し送り、指導の仕方に分けて出し、改善を1つだけ決めます(当社の整理)。
記録に残すことと、よくある抜け
研修の記録は、措置を講じたことを後から示す材料になります(当社の整理)。
- 実施記録(当社の整理):日時、参加者(パート・派遣を含む)、講師、資料と事例、周知した方針文書と相談窓口、確認テストの結果、決めた改善。
- 確認テストの例(当社の整理・○×):「業務上必要かつ相当な範囲の指導は、パワハラに当たらない」(○)、「同僚や部下からの言動は、パワハラにならない」(×)、「利用者や家族からの性的な言動も、セクハラに含まれる」(○)、「相談したことを理由に、その職員を不利益に扱ってよい」(×)。
- よくある抜け(当社の整理):方針の文書がないまま研修だけ行う/相談窓口の名前を伝えていない/管理者が受講していない/パートや派遣の職員を対象から外す/カスハラだけを扱い、職員どうしの言動を扱っていない。
無料のハラスメント対策研修キットとの組み合わせ方
本サイトの「ハラスメント対策研修キット(カスハラ中心)」は、利用者・家族からのハラスメントへの組織対応を中心に、パワハラの3要素と6類型(約5分)と相談窓口の確認を含む約30分のレジュメ、確認テスト10問(解答・解説つき)、実施記録様式、出席簿がそろっています。すべて登録不要・無料で、入力内容はお使いのブラウザ内にのみ保存され、外部には送信されません。
キットの職場内のハラスメントと相談窓口の節を講義に使い、この記事の演習と話し合いを足すと、60分の回になります(当社の整理)。
法令や国の資料は改訂されます(本記事は2026年11月時点)。運営基準上の扱いは指定権者(都道府県・市区町村)に、労働法上の措置は都道府県労働局にご確認ください。本記事は法的助言ではありません。
この記事で確認した一次資料
2026年11月4日に、次の資料の本文を取得し、該当箇所を確かめました。
- 法令(e-Gov法令検索):平成11年厚生省令第37号 第30条第4項・第101条第4項、平成11年厚生省令第39号 第24条第4項、労働施策総合推進法 第31条・第32条(2026年10月1日施行の改正後)、男女雇用機会均等法 第11条・第12条。
- 解釈通知:介護保険最新情報 Vol.934 の訪問介護の「勤務体制の確保等」の④。
- 指針:パワハラ指針(令和2年厚生労働省告示第5号)の2・4・5、セクハラ指針(平成18年厚生労働省告示第615号・令和8年10月1日適用版)の2・4。
- 版の揃え方:パワハラ指針は令和2年の告示当初の版(本文は改正前の労働施策総合推進法の条番号である第30条の2を引いています)で、セクハラ指針は令和8年10月1日適用版で確かめており、この記事が引く内容はそれぞれの版の本文で確認できたものです。
この記事を書いたチームは、note でも介護の仕事で考えたことを書いています。note をフォローする
出典(一次資料)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)
- 介護保険最新情報 Vol.934(令和3年度改定・解釈通知改正)
- 労働施策総合推進法(昭和41年法律第132号)第31条(パワーハラスメント)・第33条(カスタマーハラスメント)
- 男女雇用機会均等法(昭和47年法律第113号)第11条
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号・PDF・2026年11月4日確認)
- 厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号・令和8年10月1日適用・PDF・2026年11月4日確認)
【免責事項】本キットは研修実施の参考資料です。法令・運営基準・介護報酬の内容は改定されることがあります。実際の運用にあたっての最終確認は、指定権者(都道府県・市区町村等の自治体)へのご確認をおすすめします。本キットの利用により生じた損害について、当社の損害賠償責任は、故意・重過失を除き購入代金の額を上限とします。